作文の宿題を前にして、子どもの手が止まる。
「何を書けばいいか分からない」
保護者が、
「旅行のことは?」
「運動会は?」
「この前、友達と遊んだことでもいいんじゃない?」
と候補を出しても、なかなか決まりません。
作文では、書き方や構成が注目されがちです。
しかし、実際には、文章を書き始める前の「テーマ選び」で、その後の書きやすさは大きく変わります。
どれだけ構成を工夫しても、子どもの中に場面が残っていない出来事を選べば、内容は広がりません。
反対に、特別な体験ではなくても、見たものや聞いた言葉、自分がしたことを具体的に思い出せる場面なら、作文は書きやすくなります。
作文のテーマは、立派な出来事から選ぶものではありません。
具体的に再現できる一場面から選ぶものです。
【よい作文には、特別な体験が必要なのか】
作文のテーマを考えるとき、
旅行に行ったこと。
大会で優勝したこと。
大きな行事に参加したこと。
このような目立つ出来事を探す家庭があります。
もちろん、特別な経験も作文の題材になります。
ただし、出来事が大きければ、よい作文になるわけではありません。
家族旅行について書いていても、
「楽しかったです」
「また行きたいです」
だけで終わることがあります。
一方で、
友達に鉛筆を貸したこと。
給食で苦手なものを一口食べたこと。
塾の帰り道で、誰かに声をかけられたこと。
こうした日常の小さな出来事から、具体的でその子らしい作文が生まれることもあります。
大切なのは、出来事の大きさではありません。
その場面を、どれだけ思い出せるかです。
【書きやすいテーマには、具体的な場面が残っている】
作文のテーマを選ぶとき、最初に確認したいのは、場面を具体的に思い出せるかどうかです。
どこで起きたのか。
誰と一緒にいたのか。
目の前に何があったのか。
誰が、どのようなことを言ったのか。
自分は何をしたのか。
こうしたことが自然に出てくる体験は、作文にしやすい題材です。
たとえば、
「夏休みに海へ行った」
だけでは、まだ広すぎます。
その中でも、
大きな波が来て、思わず父の腕をつかんだ場面。
兄弟と作った砂山が、波で崩れた場面。
泳げなかった子が、初めて少し前へ進めた場面。
ここまで絞ると、書く内容が見えやすくなります。
作文のテーマは、大きな出来事ではなく、よく覚えている一場面から選ぶ方が書きやすくなります。
【人の言葉や自分の行動が残っているか】
作文が広がるテーマには、出来事だけでなく、人の言葉や自分の行動が残っています。
たとえば、
「試合に負けて悔しかった」
だけでは、何が起きたのか分かりません。
しかし、
自分のミスで点を取られた。
試合後、仲間から「まだ次があるよ」と言われた。
何も返せず、うなずくだけだった。
ここまで具体的に思い出せれば、作文の材料になります。
会話は、一言一句そのままでなくても構いません。
どのような言葉をかけられたのか。
その言葉を聞いて、自分がどう動いたのか。
そこが残っていれば、場面は書きやすくなります。
作文で説得力を生むのは、立派な表現ではありません。
実際にあった言葉と行動です。
【思いつかないときは、記憶だけを頼りにしない】
「最近、何か書けそうなことはあった?」
と聞いても、
「ない」
「忘れた」
「別に普通だった」
と返ってくることがあります。
これは、何も経験していないからではありません。
広すぎる質問をされて、どこから思い出せばよいか分からないことがあります。
そんなときは、記憶だけを頼りに探さなくて構いません。
スマートフォンの写真。
学校や塾の予定表。
持ち帰ったプリント。
使った道具。
買った物。
ノートや作品。
こうしたものを一つだけ見ます。
たとえば、塾の帰りに買った飲み物を見て、
「この日、何があった?」
と思い出す。
運動会の写真を見て、
「この直前に誰が何と言った?」
と場面を戻す。
物そのものがテーマになるわけではありません。
物や写真は、そのときの場面を思い出す手がかりです。
【テーマを決めるときの3つの基準】
作文のテーマを選ぶときは、次の三つを確認します。
一つ目は、場面を具体的に思い出せることです。
場所や人、見えたものを説明できるかを見ます。
二つ目は、人の言葉や自分の行動が残っていることです。
誰が何を言い、自分が何をしたのかを思い出せる体験は、文章にしやすくなります。
三つ目は、一つの場面まで絞れることです。
出来事全体ではなく、写真一枚のように止められる場面があるかを考えます。
この三つがそろっていれば、特別な出来事でなくても、作文の題材として十分です。
反対に、
有名な場所へ行った。
珍しい体験をした。
大きな大会に出た。
という出来事でも、場面や会話、行動をほとんど思い出せなければ、内容を広げるのは難しくなります。
【テーマを絞るとは、カメラを一場面で止めること】
「夏休みの思い出」
「運動会」
「友達との出来事」
というテーマは、そのままでは広すぎます。
子どもの頭の中に、いくつもの場面が同時に浮かぶため、どこから書けばよいか迷います。
テーマを絞るとは、大きな出来事を短くすることではありません。
カメラのズームを一つの場面まで寄せ、そこで止めることです。
たとえば、
「夏休みの旅行」
ではなく、
「ホテルに着いたとき、弟が部屋の鍵をなくした場面」
にする。
「運動会」
ではなく、
「リレーの直前、友達に声をかけられた場面」
にする。
「友達との出来事」
ではなく、
「けんかをした翌朝、自分から名前を呼んだ場面」
にする。
テーマが小さくなるほど、見えたものや会話、行動を書きやすくなります。
多くの出来事を浅く並べるより、一つの場面を詳しく書く。
それが、内容のある作文につながります。
【最初から教訓を探さない】
作文のテーマを決めるとき、
「この体験から何を学んだの?」
「どんな教訓があるの?」
と、先に結論を探すことがあります。
しかし、最初から立派な教訓を求めると、
「協力することが大切だと思いました」
「努力することが必要です」
という、どの子にも当てはまる言葉になりやすくなります。
まず書くのは、事実です。
何が見えたのか。
誰が何と言ったのか。
自分がどう動いたのか。
その場面を具体的に書いていくと、
なぜその言葉が残ったのか。
なぜ自分の行動が変わったのか。
そのとき、どのように考えたのか。
が見えてきます。
気持ちや考えは、テーマを選ぶ前に無理に探すものではありません。
具体的な場面を振り返った結果として、あとから見つかるものです。
【保護者がテーマを決めてしまわない】
子どもが迷っていると、保護者は書きやすそうなテーマを選びたくなります。
「運動会のことにしなさい」
「旅行の方が書くことが多いでしょう」
「この体験なら先生にも伝わりやすいよ」
こうした助言で、その場では書き始められるかもしれません。
ただし、親が選んだ出来事には、子どもの記憶が十分に残っていないことがあります。
保護者がするのは、テーマを決めることではありません。
思い出すための手がかりを一つ出すことです。
写真を一枚見る。
ノートを一冊開く。
持ち物を一つ机に置く。
そこから、具体的な場面が出てきたら、その場面を候補にします。
質問を次々に重ねる必要はありません。
「このとき、何があった?」
と一つだけ聞き、子どもが話し始めたら待ちます。
親が作文の内容を組み立てるのではなく、子どもの中に残っている事実を見つけるところまで支えます。
【よいテーマとは、具体的に書き切れるテーマ】
作文のテーマ選びで大切なのは、立派な結論へつながるかどうかではありません。
その場面を、自分の言葉で最後まで書き切れるかどうかです。
見えたものがある。
人の言葉がある。
自分の行動がある。
一つの場面まで絞れている。
この条件がそろえば、文章の中にその子らしさが出てきます。
そして、具体的に書いたあとで、
なぜその場面が残っているのか。
自分は何を考えたのか。
を振り返ると、自然に意見や感想が生まれます。
作文は、立派な考えから始めるものではありません。
一つの場面を具体的に置くところから始まります。
【まとめ】
小学生の作文でテーマを決めるとき、特別な体験を探す必要はありません。
大切なのは、
場面を具体的に思い出せること。
人の言葉や自分の行動が残っていること。
一つの場面まで小さく絞れること。
この三つです。
思いつかないときは、記憶だけを頼りにせず、写真や持ち物、ノート、予定表などを手がかりにします。
「夏休みの思い出」のような広いテーマではなく、一枚の写真のように止められる場面を選びます。
最初から教訓や立派な結論を探す必要はありません。
まず、見たこと、聞いたこと、自分がしたことを書く。
その事実を振り返った先に、気持ちや考えが見えてきます。
子どもが「何を書けばいいか分からない」と言ったとき、テーマを代わりに決める必要はありません。
その子の中に具体的に残っている一場面を、一緒に見つける。
作文は、書き方を教える前のテーマ選びから始まっています。
