作文指導をしていると、毎年のように聞く言葉があります。
「何を書けばいいか分かりません」
原稿用紙を前にして、鉛筆が止まる。
一行目が書けない。
数行書いては消し、また止まる。
保護者からも、
「うちの子は作文が苦手で……」
という相談を受けます。
中学受験でも、公立中高一貫校の適性検査でも、学校の作文課題でも、この悩みは珍しくありません。
ただ、長く作文指導をしていると、一つの疑問が生まれます。
本当に子どもたちは「書くこと」がないのでしょうか。
実際には、そうではありません。
むしろ、多くの子どもは書く材料をたくさん持っています。
問題は、別のところにあることが少なくないのです。
【子どもは意外とたくさんのことを覚えている】
例えば、
「最近印象に残った出来事を書きなさい」
という課題が出たとします。
すると、
「何もありません」
という子がいます。
ところが話を聞いてみると、
運動会の話が出てくる。
友達との出来事が出てくる。
塾のテストの話も出てくる。
家族で出かけた話も出てくる。
つまり、
書く材料がないわけではありません。
実際には、いろいろな出来事を覚えているのです。
では、なぜ書けないのでしょうか。
【書けない子は「選べない」】
作文が苦手な子の多くは、
何も思いつかないのではありません。
どれを書けばいいのか分からないのです。
運動会も書けそう。
塾の話も書けそう。
友達との出来事もある。
でも、
どれが正解なのだろう。
先生は何を期待しているのだろう。
もっと特別な出来事を書かなければいけないのではないか。
そう考え始める。
すると手が止まります。
現場で見ていると、
作文が苦手な子は考えていないのではありません。
むしろ考えすぎています。
ただ、
考えを整理できない。
だから書き始められないのです。
【作文が得意な子は文章が上手なのではない】
一方で、作文が得意な子もいます。
文章が長い。
詳しく書ける。
表現も豊か。
すると、
「文章力がある子」
と思われがちです。
もちろん、それもあります。
ただ、指導現場で感じるのは、
作文が得意な子は、まず「選ぶこと」ができるということです。
運動会の話を書く。
その中でもリレーの場面を書く。
さらに、その時に感じた悔しさを書く。
そうやって、
たくさんある材料の中から一つを選びます。
つまり、
作文力の前に、
整理する力があるのです。
【親がやりがちな声かけ】
家庭で作文を見る時、
親も不安になります。
すると、
「もっと面白いことを書きなさい」
「もっと詳しく書きなさい」
「文字数が少ないよ」
そんな声かけが増えます。
もちろん悪気はありません。
少しでも良い作文にしたいからです。
ただ、
この声かけによって、
子どもはさらに迷うことがあります。
面白いことって何だろう。
詳しくってどこまでだろう。
もっと良い話を書かなければいけないのだろうか。
すると、
ますます書けなくなります。
【作文は文章力より整理力】
作文というと、
語彙力。
表現力。
文章力。
そうしたものが注目されます。
もちろん大切です。
ただ、小学生の作文では、それ以前に必要な力があります。
それは、
整理する力です。
何があったのか。
その時どう思ったのか。
なぜそう感じたのか。
何を一番伝えたいのか。
これを順番に並べる力です。
実際、作文が苦手な子の多くは、
文章を書けないのではありません。
考えを並べられないのです。
逆に、
考えが整理できるようになると、
文章は驚くほど書けるようになります。
【家庭でできること】
作文を教えようとすると、
つい文章を直したくなります。
漢字。
言葉遣い。
表現。
もちろん必要です。
ただ、その前にできることがあります。
例えば、
「何を書こうと思ったの?」
と聞く。
あるいは、
「一番伝えたい場面はどこ?」
と聞く。
さらに、
「その時どんな気持ちだった?」
と聞いてみる。
文章を直すのではなく、
頭の中を整理する手伝いをするのです。
すると、
子どもは少しずつ、
自分の考えを言葉にできるようになります。
【まとめ】
作文が苦手な子は、
本当に書くことがないのでしょうか。
現場で見ていると、
そうではないことがほとんどです。
書く材料はある。
経験もある。
感じたこともある。
ただ、
どれを選ぶのか。
どう整理するのか。
そこが難しい。
だから手が止まるのです。
作文は、
上手な言葉を並べる競技ではありません。
自分の考えを整理し、
相手に伝わる形にする作業です。
もし我が子が、
「何を書けばいいか分からない」
と言った時は、
文章力を疑う前に、
何を考えているのかを一緒に整理してみる。
そこから、作文は少しずつ変わり始めるのだと思います。
