作文の宿題を前にして、子どもの鉛筆が止まっている。
しばらく待っても、一行目が始まらない。
ようやく書き始めたと思ったら、二、三行で終わってしまう。
保護者が、
「もう少し詳しく書いたら?」
と声をかけても、
「何を書けばいいか分からない」
と返ってくる。
作文指導の現場では、よく見かける光景です。
こうした様子を見ると、つい「文章力がない」「語彙が少ない」と考えたくなります。
しかし、作文が苦手な子が、全員同じところで困っているわけではありません。
何を書くか決められない子もいれば、出来事を詳しく思い出せない子もいます。
話すことはできても、順番に並べられない子もいます。
作文を伸ばすためには、まず「何が書けないのか」を見分けることが大切です。
【「作文が苦手」だけでは原因が分からない】
作文が苦手な子に、
「どうして書けないの?」
と聞いても、多くの場合は、
「分からない」
「思いつかない」
という答えが返ってきます。
けれど、実際に話を聞いてみると、何も考えていないわけではありません。
運動会のこと。
友達と遊んだこと。
テストで悔しかったこと。
家族で出かけたこと。
子どもの中には、書けそうな材料がいくつもあります。
それでも書けないのは、作文を書くまでに必要な作業のどこかで止まっているからです。
作文では、
何を書くか決める。
出来事を思い出す。
書く順番を考える。
気持ちを言葉にする。
読み手に伝わる文にする。
こうした複数の作業を同時に行います。
作文が苦手に見える子の中には、文章を書く力そのものよりも、複数の作業を一度に処理するところで止まっている子がいます。
だからこそ、「もっと長く書こう」「詳しく書こう」と言うだけでは、前に進まないことがあります。
【何を書くか選べない】
最も多いのが、題材を選べない子です。
書くことがないのではありません。
候補が多すぎて、どれを選べばよいか分からないのです。
「運動会でもいいし、遠足でもいい」
「友達のことも書けそう」
「でも、もっと特別な出来事の方がいいのかな」
そう考えているうちに、手が止まります。
作文が苦手な子は、何も考えていないとは限りません。
むしろ、正解を探しすぎていることがあります。
この場合は、
「一番すごい出来事は何?」
と聞くよりも、
「一番よく覚えている場面はどこ?」
と尋ねた方が選びやすくなります。
特別な体験でなくても構いません。
一つの場面を選べれば、作文は始められます。
作文用紙の前で止まる理由については、
「作文で『何を書けばいいか分からない』は、本当に書く力の問題なのか」
でも詳しく整理しています。
【出来事を詳しく思い出せない】
題材は決まっているのに、数行で終わってしまう子もいます。
たとえば、
「家族で公園へ行きました。遊具で遊びました。楽しかったです」
で終わる作文です。
これは、経験が浅いとは限りません。
出来事を細かく取り出せていないのです。
どの遊具で遊んだのか。
誰と一緒だったのか。
最初はうまくできたのか。
途中で何が起きたのか。
一番笑ったのはどこか。
こうして場面を分けてみると、書ける内容は増えていきます。
「もっと詳しく」と言われても、子どもにはどこを増やせばよいのか分かりません。
詳しく書けない子には、出来事を小さな場面に分ける手助けが必要です。
詳しく書くための手順については、
「小学生の作文がスラスラ書けるようになる方法|詳しく書くための6つのステップ」
で紹介しています。
【順番に並べられない】
話をさせると、たくさんのことが出てくる。
ところが、文章にすると分かりにくくなる。
このような子は、材料が足りないのではなく、順番に並べるところで困っています。
頭の中に浮かんだことを、思いついた順に書くだけでは、読み手には伝わりません。
作文が得意な子は、書き始める前に、無意識のうちに材料を並べ替えています。
一方、苦手な子は、思い出すことと、順番を考えることと、文章を書くことを一度に行おうとして混乱します。
この場合は、いきなり原稿用紙へ向かわせる必要はありません。
出来事を、
「前」
「最中」
「後」
の三つに分け、短い言葉で整理します。
たとえば運動会なら、
前
緊張していた。失敗しないか心配だった。
最中
途中で転びそうになった。友達の声が聞こえた。
後
負けたけれど、最後まで走れてほっとした。
このように、まず時間の流れを分けます。
思い出すことと、文章にすることを同時にさせないだけでも、子どもの負担は軽くなります。
【気持ちを言葉にできない】
出来事は書けても、
「楽しかったです」
「うれしかったです」
「悔しかったです」
で終わる子もいます。
保護者から見ると、語彙力の問題に見えるかもしれません。
もちろん、知っている言葉の数も影響します。
ただ、それ以上に多いのは、自分の気持ちを細かく振り返った経験が少ないことです。
「うれしかった」の前に、何を期待していたのか。
「悔しかった」のは、負けたからなのか、力を出せなかったからなのか。
「楽しかった」のは、成功したからなのか、友達と一緒だったからなのか。
理由までたどると、その子らしい言葉が出てきます。
気持ちを表す言葉を増やすことだけが目的ではありません。
「なぜ、そう感じたのか」を考えることが、作文の中身を深くします。
語彙と作文の関係については、
「子どもの語彙力を伸ばすには?本を読むだけでは足りない理由と家庭でできること」
も参考になります。
【大人の言葉を借りてしまう】
作文の形は整っているのに、どこか本人らしさがないこともあります。
「みんなで協力することが大切だと思いました」
「一人ひとりが意識する必要があります」
「これからも努力したいです」
間違った文章ではありません。
ただ、どの子が書いても同じ文章になります。
これは、子どもが考えていないのではなく、正解らしい言葉を選んでいる状態です。
特に適性検査作文では、立派に見える表現を書こうとして、大人の借り物の言葉が増えることがあります。
この場合は、一般論から本人の経験へ戻します。
「あなたが実際に見たことは何?」
「あなた自身は、何を変えたいと思った?」
こうして本人の経験と考えに戻ると、借り物ではない言葉が出てきます。
自分の言葉で書く方法については、
「作文で大人の借り物言葉を連発する子の直し方|適性検査作文で自分の言葉を書くために」
で詳しく解説しています。
【親が文章を直しすぎると、原因が見えなくなる】
家庭で作文を見ると、誤字や表現が気になります。
「この言い方はおかしい」
「同じ言葉を繰り返している」
「ここは、こう書いた方がいい」
良い作文にしたいという気持ちから、直したくなるのは自然なことです。
ただ、書き上がった文章だけを直していると、子どもがどこで困っているのかが見えなくなります。
題材を選べなかったのか。
出来事を思い出せなかったのか。
順番が分からなかったのか。
気持ちを言葉にできなかったのか。
まず見るべきなのは、文章の完成度より、手が止まった場所です。
作文の指導は、完成した文を添削することだけではありません。
書く前の頭の中を整理することも、大切な指導です。
【家庭では、止まっている作業を一つだけ分ける】
作文が止まったとき、保護者が内容を考えてあげれば、その場では完成します。
けれども、必要なのは、子どもの代わりに文章を作ることではありません。
子どもは、出来事を思い出し、順番を考え、言葉を選び、文章を書くという複数の作業を同時に行っています。
手が止まったときは、どの作業で止まっているのかを見ます。
題材が決まらないのであれば、
「一番覚えている場面はどこ?」
と一つだけ尋ねます。
順番で困っているのであれば、出来事を「前・最中・後」に分けます。
答えが出たら、再び子どもに任せます。
質問を次々に重ね、親が作文を組み立ててしまう必要はありません。
子どもの手が止まったところで、一つだけ作業を分ける。
止まりが取れたら、また子どもに戻す。
家庭での支え方は、その程度で十分です。
【「作文が苦手」ではなく、どこで止まるかを見る】
作文が苦手な子は、単に文章力が足りないわけではありません。
何を書くか選べない。
出来事を詳しく思い出せない。
順番に並べられない。
気持ちを言葉にできない。
自分の言葉で書けない。
つまずく場所は、子どもによって違います。
だから、「もっと詳しく」「もっと長く」と言うだけでは、解決しないことがあります。
まずは、子どもの手がどこで止まったのかを見る。
そして、必要な作業だけを分ける。
作文は、上手な表現を並べることから始まるのではありません。
自分の中にある経験や考えを選び、整理し、相手に伝わる形にすることから始まります。
【まとめ】
「作文が苦手」という言葉だけでは、必要な練習は分かりません。
文章を書く前には、題材を選ぶ、出来事を思い出す、順番を考える、気持ちを言葉にするといった複数の作業があります。
子どもが止まったときに大切なのは、親が答えを与えることではありません。
どの作業で止まっているのかを見つけ、一つだけ分けることです。
題材なら、一番覚えている場面を選ぶ。
順番なら、「前・最中・後」に分ける。
答えが出たら、再び子どもに任せる。
その積み重ねが、自分で考え、自分の言葉で書く力につながります。
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