公立中高一貫校の適性検査作文を見ていると、よく出てくる言葉があります。
「一人ひとりの意識が大切です」
「社会全体で考える必要があります」
「みんなで協力することが大切です」
「未来のために努力したいです」
「環境を守ることが重要です」
どれも、間違ったことを言っているわけではありません。
むしろ、一見すると立派に見えます。
けれど、作文として読むと、どこか中身が薄い。
子ども本人の考えが見えない。
資料を読んだ形跡がない。
自分の経験とつながっていない。
このような作文になることがあります。
これは、子どもが何も考えていないということではありません。
多くの場合、考えがないのではなく、自分の考えにたどり着く前に、大人が使いそうな言葉へ逃げてしまっているのです。
適性検査作文で必要なのは、大人のようなきれいな言葉を書くことではありません。
与えられた資料やテーマを読み取り、自分の経験や考えと結びつけ、理由を持って説明することです。
この記事では、作文で大人の借り物言葉を連発してしまう子の特徴と、その直し方について整理します。
【借り物言葉とは何か】
借り物言葉とは、子ども自身の経験や具体的な考えとつながっていない、外から借りてきたような言葉のことです。
たとえば、
「努力が大切です」
「協力が必要です」
「意識を高めるべきです」
「社会全体で取り組むべきです」
「未来のために行動したいです」
このような表現です。
もちろん、これらの言葉そのものが悪いわけではありません。
問題は、その言葉の下に、子ども自身の具体的な経験や理由がないことです。
なぜ努力が大切だと思ったのか。
どの場面で協力が必要だと感じたのか。
何を見て、意識を高める必要があると考えたのか。
自分の生活の中で、どんな行動につながるのか。
ここが書かれていなければ、文章は空洞になります。
読み手には、「どこかで聞いた言葉を並べているだけ」に見えてしまいます。
適性検査作文で評価されるのは、きれいなスローガンではありません。
資料やテーマをもとに、自分がどう考えたのかを具体的に説明する力です。
借り物言葉が多い作文は、その力が見えにくくなります。
【なぜ子どもは借り物言葉に逃げるのか】
子どもが借り物言葉を使うのには理由があります。
一つ目は、資料をどう読めばよいか分からないことです。
適性検査作文では、資料や会話文、表、グラフ、課題文などが与えられることがあります。
そこには、考えるための情報があります。
しかし、子どもがその資料のどこに注目すればよいか分かっていないと、資料を読んだ形跡が作文に残りません。
資料はある。
でも、作文には使われていない。
この状態では、文章は一般論に流れます。
二つ目は、自分の経験に接続できていないことです。
子どもの中には、学校生活、家庭での出来事、友人関係、係活動、失敗や工夫の経験があります。
しかし、テーマを見たときに、そのどの経験を使えばよいかが分からない。
すると、
「みんなで協力することが大切です」
「一人ひとりが意識する必要があります」
という、どのテーマにも使えそうな言葉に逃げてしまいます。
三つ目は、大人が喜びそうな正解を探していることです。
子どもは、大人が好みそうな言葉をよく知っています。
環境問題なら「地球を守る」。
高齢化なら「助け合い」。
地域活動なら「協力」。
読書なら「知識が増える」。
こうした言葉を使えば、間違いではないように見えます。
しかし、それは自分の考えというより、大人の正解を予想して書いている状態です。
適性検査作文で必要なのは、大人が喜びそうな言葉を探すことではありません。
資料やテーマを、自分の生活や経験に引き寄せて考えることです。
【借り物言葉は、作文のバグである】
借り物言葉の正体は、語彙力不足ではありません。
資料と経験がつながっていない、作文の接続不良です。
「協力」
「努力」
「意識」
「社会」
「未来」
これらの言葉は、悪い言葉ではありません。
作文の中で使ってはいけないわけでもありません。
ただし、資料・経験・理由につながっていなければ、文章は空洞化します。
たとえば、テーマが「協力」だったとします。
借り物言葉の作文では、
「みんなで協力することが大切です」
で終わってしまいます。
しかし、自分の経験とつながると、こうなります。
「係活動で仕事を一人で抱え込んだとき、かえって時間がかかりました。役割を分けたら、全員が何をすればよいか分かり、早く終えることができました」
同じ「協力が大切」でも、後者には経験があります。
場面があります。
失敗があります。
工夫があります。
変化があります。
だから、読み手に子どもの考えが伝わります。
借り物言葉を直すとは、難しい言葉をやめさせることではありません。
資料と経験をつなぎ直すことです。
抽象語を禁止するのではなく、抽象語の下に具体を置くことです。
そこまでできて、作文はその子自身の言葉になります。
【直し方1:抽象語を消さない】
借り物言葉を見ると、保護者はつい「その言葉は使わない方がいい」と言いたくなります。
もちろん、同じ表現ばかり繰り返すのはよくありません。
しかし、最初から言葉を禁止するだけでは、子どもはさらに書けなくなります。
「協力って書いちゃだめ」
「努力って書かない方がいい」
「大切です、ばかり使わないで」
このように言われると、子どもは次に何を書けばよいか分からなくなります。
大切なのは、抽象語を消すことではありません。
その言葉を支える経験や理由を探すことです。
「協力が大切です」と書いたなら、
「どんな場面でそう思ったのか」
を聞きます。
「一人ひとりの意識が大切です」と書いたなら、
「自分は何に気づいたのか」
を聞きます。
「努力したいです」と書いたなら、
「何を、どのように変えるのか」
を聞きます。
抽象語は、作文の結論に使うことができます。
しかし、その前に具体的な経験や理由が必要です。
具体がないまま抽象語だけを書くから、借り物に見えるのです。
【直し方2:抽象語の下に場面を置く】
借り物言葉を直すときは、まず抽象語の下に場面を置きます。
「協力が大切」なら、どの場面でそう思ったのか。
係活動。
掃除。
班活動。
家の手伝い。
習い事のチーム練習。
友だちとの話し合い。
このような具体的な場面につなげます。
「環境を守る」なら、
家庭のごみ分別。
給食の残食。
学校の節電。
買い物の袋。
地域の清掃活動。
こうした身近な場面につなげます。
「努力が大切」なら、
失敗したこと。
続かなかったこと。
やり方を変えたこと。
少しできるようになったこと。
もう一度試したこと。
このような経験につなげます。
適性検査作文で強いのは、大人びた言葉を使う子ではありません。
自分の小さな実感を、テーマに合わせて説明できる子です。
たとえば、環境問題の作文で、
「地球温暖化を防ぐために、社会全体で取り組むべきです」
と書くよりも、
「給食の牛乳パックを片づけるとき、きちんと開いて洗うのが面倒だと思ったことがあります。でも、みんなが適当に出すと、後で片づける人の手間が増えると分かりました」
と書く方が、子どもの考えが見えます。
もちろん、入試作文としては、ここから資料やテーマに戻してまとめる必要があります。
しかし、出発点としては、このような小さな実感の方が強いのです。
大きなスローガンより、小さな具体。
ここから作文は動き始めます。
【直し方3:場面を「失敗・工夫・変化」に分解する】
場面が出てきたら、次はそれを分解します。
作文の具体例は、出来事を書くだけでは弱くなります。
大切なのは、その出来事の中に、失敗・工夫・変化があるかどうかです。
たとえば、「係活動で協力した」と書くだけでは、まだ浅いです。
誰と。
何を。
どのように役割を分けたのか。
最初は何がうまくいかなかったのか。
協力したことで何が変わったのか。
ここまで分けると、作文の材料になります。
「努力」も同じです。
何ができなかったのか。
どんな方法を試したのか。
どこで失敗したのか。
何を変えたのか。
少しでもできるようになったことは何か。
ここまで分けると、ただの「努力が大切です」ではなくなります。
「意識」も同じです。
何に気づいたのか。
気づく前はどうしていたのか。
気づいた後、行動はどう変わったのか。
自分以外の人にどんな影響があったのか。
ここまで掘ると、子どもの考えが見えてきます。
作文で大切なのは、立派な出来事を書くことではありません。
出来事の中から、失敗・工夫・変化を取り出すことです。
この三つがあると、文章は借り物ではなくなります。
【直し方4:経験を書いたら、必ず資料へ戻す】
借り物言葉を避けるためには、自分の経験に戻ることが大切です。
しかし、自分の経験だけを書いて終わる作文も、適性検査作文としては弱くなります。
なぜなら、それはまだ「思い出話」だからです。
適性検査作文で求められているのは、自分の過去を語ることではありません。
自分の狭い経験から得た気づきを、資料やテーマで示された課題へつなげ直すことです。
たとえば、資料に「地域で高齢者を支える取り組み」が出ていたとします。
そこで、自分の祖父母の話だけを長く書いてしまうと、作文は資料から離れてしまいます。
もちろん、祖父母との経験そのものが悪いわけではありません。
問題は、その経験が資料の課題に戻っていないことです。
大切なのは、
資料では何が問題になっているのか。
自分の経験のどこが、その問題とつながるのか。
その経験から得た気づきを、資料の課題にどう生かせるのか。
ここを結ぶことです。
適性検査作文では、具体と抽象を行き来する力が見られます。
資料を読む。
資料から課題をつかむ。
自分の経験に引き寄せる。
経験の中から、失敗・工夫・変化を取り出す。
最後にもう一度、資料やテーマへ戻す。
この往復ができて初めて、作文はただの体験談ではなく、考えを説明する答案になります。
自分の経験は、作文の材料です。
しかし、材料を書いただけでは点数にはつながりにくい。
その材料を、資料の中にある課題へどう接続するか。
そこに、適性検査作文で見られる思考力があります。
借り物言葉を直すには、経験に戻ることが必要です。
しかし、経験だけで終われば、今度は日記になります。
資料と経験をつなぎ、最後にテーマへ戻す。
この一往復ができるかどうかが、適性検査作文の大きな分かれ目です。
【借り物言葉を直す問いかけ】
家庭で作文を見直すとき、保護者ができることがあります。
それは、子どもの言葉を責めることではありません。
問いかけによって、抽象的な言葉を具体に戻すことです。
たとえば、次のように聞きます。
「それを、自分の生活で見たことはある?」
「学校で似たような場面はあった?」
「そう思ったきっかけは何?」
「何に困ったの?」
「そのとき、どうしたの?」
「最初と最後で何が変わったの?」
「資料のどこを見て、そう思ったの?」
「その経験は、テーマとどうつながる?」
この問いかけによって、子どもは自分の経験を探し始めます。
大切なのは、いきなり完成文に直させないことです。
まずは、材料を出します。
場面。
失敗。
工夫。
変化。
気づき。
資料とのつながり。
これらを出してから、作文に戻します。
作文が苦手な子に、いきなり「もっと具体的に書きなさい」と言っても、なかなか直せません。
何を具体的にすればよいかが分からないからです。
保護者が見るべきなのは、文章のきれいさよりも、材料が出ているかどうかです。
【保護者がやってはいけない直し方】
作文を直すとき、保護者がやりすぎると逆効果になることがあります。
特に注意したいのは、大人が文章を完成させてしまうことです。
「こう書いた方がいい」
「この表現を使いなさい」
「このまとめ方にしなさい」
と、大人が整えすぎると、作文は一見うまくなります。
しかし、それは子どもの言葉ではなくなります。
大人が直した作文は、読みやすくなります。
語尾も整います。
構成もきれいになります。
けれど、入試本番で子どもが再現できなければ意味がありません。
大人が整えた作文は、入試本番で再現できません。
作文の直しで大切なのは、大人の完成文を与えることではありません。
子どもの中にある材料を引き出し、子ども自身の言葉で組み立て直すことです。
保護者が見るべきなのは、
この言葉は子どもの経験とつながっているか。
資料のどこを使っているか。
理由が言えているか。
具体例があるか。
最後にテーマへ戻れているか。
という点です。
大人が作文をきれいにしてしまうほど、子どもは自分で考える機会を失います。
適性検査作文で必要なのは、添削された文章を覚えることではありません。
自分で材料を選び、自分で理由を作り、自分の言葉で書く力です。
【まとめ】
適性検査作文で、大人の借り物言葉を連発してしまう子は少なくありません。
「一人ひとりの意識が大切です」
「社会全体で考える必要があります」
「みんなで協力したいです」
「未来のために努力したいです」
こうした言葉は、一見立派に見えます。
しかし、子ども自身の経験や理由とつながっていなければ、作文は空洞になります。
借り物言葉が出るのは、子どもに考えがないからではありません。
資料を読んだ形跡がない。
自分の経験に接続できていない。
大人が喜びそうな正解を探している。
このような状態であることが多いのです。
借り物言葉の正体は、語彙力不足ではありません。
資料と経験がつながっていない接続不良です。
直すために必要なのは、難しい言葉を禁止することではありません。
抽象語を具体に戻すことです。
「協力」と書いたなら、誰と何をどう分担したのか。
「努力」と書いたなら、何ができず、何を変えたのか。
「意識」と書いたなら、何に気づき、行動がどう変わったのか。
そこまで掘ることです。
適性検査作文で大切なのは、大人のようなきれいな言葉を書くことではありません。
資料を読み取り、自分の経験とつなげ、自分の言葉で理由を説明することです。
背伸びした言葉より、等身大の経験。
大きなスローガンより、小さな具体。
そして、その経験を資料やテーマに戻すこと。
そこに、適性検査作文で伝わる文章の土台があります。
