夏休みに入ると、保護者からよく聞く相談があります。
「朝から勉強させたいのですが、なかなか始めません」
起きる時間が遅い。
朝食を終えても、ぼんやりしている。
机に向かっても、鉛筆が動かない。
その姿を見ていると、
「夏休みなのに、このままで大丈夫なのか」
と不安になります。
特に中学受験を控えた小学校高学年では、夏は大切な時期です。
朝から計画的に勉強してほしいと思うのは、自然なことです。
ただ、何度も声をかければ、朝から動けるようになるとは限りません。
まず考えたいのは、やる気がないのかではなく、始めるまでの動線に無理がないかということです。
【朝から勉強できないのは、やる気の問題とは限らない】
朝から勉強を始められないと、
「受験生としての自覚が足りない」
「危機感がない」
と見えてしまうことがあります。
しかし、実際には別の理由で止まっている子も少なくありません。
何時から何を始めるのか決まっていない。
最初の課題が重すぎる。
前日の疲れが残っている。
夏期講習や宿題の量を考え、始める前から気が重くなっている。
机に向かってから、その日にやることを選ぼうとしている。
こうした状態では、勉強を始める前に多くの判断が必要になります。
朝から動けない状態を、すぐに意欲の低さと結びつけると、本当の原因が見えなくなります。
大切なのは、子どもがどこで止まっているのかを見ることです。
【「朝から何時間」より、最初の一つを決める】
夏休みの計画を立てるとき、
午前中に三時間勉強する。
九時から算数と国語をする。
というように、大きな時間枠を先に決めることがあります。
ただ、朝から動けない子にとっては、「三時間勉強する」という予定そのものが重く感じられます。
最初に決めたいのは、勉強時間ではありません。
朝食が終わったら、計算を三問解く。
九時になったら、前日の漢字を確認する。
夏期講習の復習プリントを一枚だけ開く。
このように、最初の動きを小さくしておきます。
「算数を一時間する」では、始める前に教材や範囲を考えなければなりません。
「机の上にある計算を三問解く」なら、考える前に手を動かせます。
勉強を始めるために必要なのは、長時間取り組む覚悟ではありません。
最初の一歩で迷わない状態を作ることです。
【朝一番に難しい課題を置かない】
朝は頭がすっきりしているから、難しい算数をやらせたい。
そう考える家庭もあります。
確かに、朝に思考力を使う学習が向いている子もいます。
ただ、朝から動きにくい子に、いきなり難問や苦手科目を置くと、勉強そのものを始められなくなることがあります。
最初は、手を動かせば進む課題で構いません。
計算。
漢字。
音読。
暗記カード。
前日の授業内容の確認。
こうした課題で学習を始め、その後に重い課題へ移ります。
大切なのは、「朝だから難しいことをする」と決めることではありません。
最初の課題を入り口にして、その後の学習へつなげることです。
【親の声ではなく、環境を開始の合図にする】
最初は、
「九時になったよ」
という一言だったはずが、
「いつ始めるの?」
「昨日も遅かったよね」
「受験生なんだから、朝からやらないと」
と、声かけが増えていくことがあります。
何度も言わなければ動かない姿を見れば、保護者が焦るのも当然です。
ただ、親が毎朝声をかけて始めさせる状態が続くと、子どもは自分で時間を見て動くのではなく、親から言われるのを待つようになります。
問題は、声のかけ方だけではありません。
親の声が、勉強を始めるための条件になっていることです。
そこで、声をかけなくても始めやすい環境を作ります。
前日の夜に、最初に取り組む教材だけを机に置く。
開始時刻を、時計やタイマーで知らせる。
朝食後の行動を、「歯磨き、机、計算三問」のように固定する。
一度に複数の教材を並べず、最初の一つだけを見える状態にする。
小学生ですから、最初から完全に一人で動ける必要はありません。
親が一度だけ開始を知らせることもあるでしょう。
ただし、目指すのは、親の催促で動く状態ではありません。
少しずつ、時間と環境を見て自分で始められる状態へ移していくことです。
【前日の疲れを無視して、朝だけ整えない】
夏期講習が始まると、生活は普段より不規則になりやすくなります。
帰宅が遅くなる。
夕食が遅くなる。
宿題が終わらず、寝る時間も遅くなる。
その状態で、翌朝だけ早く起こそうとしても、子どもの負担は増えます。
朝から勉強できないときは、朝の行動だけでなく、前日の終わり方も確認します。
何時まで宿題を続けるのか。
終わらなかった課題を、どこで区切るのか。
寝る直前まで動画やゲームを続けていないか。
睡眠時間を削ってまで、すべての宿題を終えようとしていないか。
朝の学習は、前日の生活とつながっています。
朝だけを切り取って直そうとしても、うまくいかないことがあります。
【朝型でなくてもよいのは、一日全体が回っている場合】
中学受験では、朝から勉強する習慣が役立つ場面があります。
入試は午前中に行われることが多く、朝から頭を動かす練習も必要です。
ただし、夏休みの家庭学習で、朝型にすること自体を目的にする必要はありません。
朝に長く集中できなくても、午後や夕方に必要な学習量を確保できている。
夜遅くまで宿題が残らず、翌朝に疲れを持ち越していない。
親に何度も言われなくても、決めた時間帯にある程度始められている。
このように、一日全体の学習が回っているなら、朝に長時間勉強できないことだけを問題にする必要はありません。
反対に、
朝は動けない。
午後も先延ばしにする。
夜になって宿題に追われる。
寝る時間が遅くなる。
という状態なら、「うちは夜型だから」で済ませることはできません。
それは夜型なのではなく、一日の中に課題が重なりすぎ、始める場所も終える場所も見えなくなっている状態です。
朝型か夜型かではなく、必要な学習が無理なく回り、翌日に疲れを残していないかで判断します。
【うまくいかない日は、予定表ではなく最初の動きを見直す】
予定どおり始められなかった日があると、家庭では計画表を作り直したくなります。
九時開始を八時半にする。
算数を午前から午後へ移す。
空いている時間に課題を詰め直す。
しかし、時間割をきれいに書き直しても、始めるときの負担が同じなら、また止まります。
見直すべきなのは、予定表の形ではありません。
最初の課題が大きすぎなかったか。
机に向かってから、何をするか選ばせていなかったか。
教材を探すところから始めていなかったか。
朝の最初に、苦手な課題を置いていなかったか。
こうした始めるまでの流れです。
「九時から算数を一時間する」を、
「朝食後、机に置いてある計算を三問解く」
に変える。
計画を細かく作り直すのではなく、最初の動きを軽くします。
始められたら、その後の課題は子どもの状態を見ながらつなげればよいのです。
【朝から動けない日を、失敗にしない】
夏休みは長く続きます。
毎日、同じ時刻に同じように始められるとは限りません。
講習の疲れが残っている日もあります。
予定より遅く起きる日もあります。
集中できない日もあります。
そのたびに、
「今日もできなかった」
「また計画どおりに進まなかった」
と失敗にすると、子どもも保護者も疲れていきます。
大切なのは、予定どおりに動かすことではありません。
どこで止まったのかを見つけ、次の日の始め方を少し変えることです。
朝から動けなかった日は、やる気を責める材料ではありません。
最初の課題や前日の過ごし方を見直す材料です。
【まとめ】
中学受験の夏休みに朝から勉強できない子を見て、すぐに「やる気がない」と決める必要はありません。
何から始めるか決まっていない。
最初の課題が重い。
前日の疲れが残っている。
親の声が、勉強を始める条件になっている。
こうした理由で、動き出せなくなっている場合があります。
まずは、朝から何時間勉強するかではなく、最初に取り組む課題を一つだけ決める。
いきなり難しい課題を置かない。
前日の夜に、最初の教材を準備しておく。
親の催促ではなく、時間や環境を開始の合図にする。
そして、朝型かどうかではなく、一日全体の学習が無理なく回っているかを見る。
予定どおりに動けなかったときも、時間割をきれいに作り直す必要はありません。
最初の一歩が重くなっていなかったかを確認し、手を動かしやすいところまで小さくします。
朝から動けない子に必要なのは、より強い声かけではありません。
自分で始められるところまで、最初の動きを整えることです。
