中学受験の算数で、間違えた問題をもう一度解かせる。
今度は正解できた。
ところが、数日後に似た問題を出すと、また解けない。
保護者からは、
「何度も解き直しているのに、どうして身につかないのでしょうか」
という相談をよく受けます。
解き直しをしていないわけではありません。
ノートには途中式が書かれ、答えにも丸がついています。
それでも力にならないのは、問題の考え方ではなく、直前に見た解答の形を覚えているだけだからかもしれません。
解き直しの目的は、同じ答えを再現することではありません。
問題の条件から、自分で最初の一手を選べるようにすることです。
【解答を見た直後の正解は、理解とは限らない】
間違えた問題の解説を読む。
先生の説明を聞く。
解答の式や図をノートに写す。
その直後に同じ問題を解けば、多くの子は正解できます。
先ほど見た式や図の形が、頭の中に残っているからです。
「最初に線分図を書く」
「次に全体を一と考える」
「最後にこの式で割る」
という順番を、そのままなぞっていることがあります。
同じ数字。
同じ文章。
同じ図。
同じ問い方。
この条件なら解ける。
しかし、数字や文章の順序が少し変わると止まる。
この状態では、考え方を理解したのではなく、その問題の解答を覚えただけです。
解答を見た直後にできたことだけで、「もう大丈夫」と判断しないことが大切です。
【解き直しが、解答の写し直しになっていないか】
解き直しのノートを見ると、きれいな式が並んでいることがあります。
ただし、その式が子ども自身の判断から出たものとは限りません。
解答を横に置いたまま写している。
途中で止まるたびに、解説へ戻っている。
先生が書いた図を、そのまま再現している。
最後まで書き終え、丸がつけば解き直しは完了。
これでは、正しい解答をもう一度作っただけです。
大切なのは、どの式を書くかを覚えることではありません。
なぜその式を使うのかを、問題の条件から判断できることです。
解答を閉じたときに、
何を求める問題なのか。
どの条件を使うのか。
どのような図や表で整理するのか。
が分からなければ、まだ解き直しは終わっていません。
【同じ問題を繰り返すだけでは、理解か記憶か分からない】
間違えた問題を三回解く。
翌日も、同じ問題を解く。
反復すること自体には意味があります。
ただし、同じ問題だけを繰り返していると、理解したのか、問題を覚えたのかを見分けにくくなります。
問題文を見た瞬間に、
「答えは二十四だった」
「この次は三で割る」
と、以前の解答を思い出していることがあります。
同じ問題の正解は、記憶でも作れます。
理解できているかを見るには、解答の記憶が薄れたあとでも、最初の一手を選べるかを確かめる必要があります。
そのため、解き直しは二段階に分けます。
その日は、考え方と条件を整理する。
翌日や数日後に、本当に自分で再現できるか確認する。
直後の正解より、時間を置いたあとの判断を見ることが大切です。
【直すべきなのは、答えではなく最初の判断】
算数で間違えたとき、子どもは最後の計算ミスに目を向けがちです。
「引き算を間違えた」
「数字を写し間違えた」
確かに、計算上の誤りもあります。
しかし、その前の判断がずれていることも少なくありません。
何を求める問題か分かっていなかった。
条件の関係を整理しないまま式を作った。
図を描かず、頭の中だけで処理しようとした。
単位をそろえていなかった。
「全体」と「残り」を取り違えた。
この最初のずれを直さず、正しい計算だけを覚えても、次の問題ではまた同じ場所で止まります。
解き直しでは、
「どこで計算を間違えたか」
だけでなく、
「最初に何を判断できなかったか」
を見る必要があります。
【解答を閉じて、問題の条件を見える形にする】
解説を読んだあと、すぐに最初から解かせる必要はありません。
まず解答を閉じます。
そのうえで、問題文に戻ります。
求めるものを囲む。
大切な条件に線を引く。
分かっている数と、分からない数を分ける。
必要に応じて、図や表に整理する。
速さなら、道のり・速さ・時間の関係を見る。
割合なら、もとにする量・比べる量・割合を分ける。
場合の数なら、表や樹形図を使う。
図形なら、長さ・角度・面積の条件を書き込む。
すべての問題を同じ形で整理する必要はありません。
問題に合った方法で、条件同士の関係を見えるようにします。
口頭でうまく説明できない子でも、ノートに条件を整理した跡が残れば、考え方を確認できます。
【最初の一手だけを短く書かせる】
解き方を最初から最後まで説明させると、子どもにとって負担が大きくなることがあります。
国語で説明することが苦手な子は、算数の考え方が分かっていても、うまく言葉にできません。
そのため、長い説明は必要ありません。
「まず何を求めるか」
を、短く書かせます。
たとえば、
一人分を先に求める。
同じ時間にそろえる。
全体の量を一と考える。
重なった部分を引く。
といった程度で構いません。
この一言が自分で書ければ、解答の式をそのまま覚えているのではなく、問題への入り方を整理できています。
解き直しで残したいのは、長い模範解答ではありません。
次の問題でも使える、最初の判断です。
【その日の解き直しでは、条件から式を作り直す】
条件を整理したら、解答を見ずにもう一度解きます。
ここで大切なのは、前と同じ式を思い出すことではありません。
自分で整理した条件から、式を作り直すことです。
途中で止まったら、すぐに解答へ戻るのではなく、
求めるものは何か。
今分かっていることは何か。
図や表のどこがまだ埋まっていないか。
を確認します。
それでも分からなければ、解説をもう一度見ても構いません。
ただし、見たあとは再び閉じます。
解答を開いたまま最後まで書くのではなく、必要な部分だけ確認し、自分の判断へ戻る。
この繰り返しによって、写し直しではない解き直しになります。
【翌日は、解答の残像が消えた状態で確認する】
その日のうちに正解できても、それだけでは身についたとは判断できません。
翌日や数日後に、もう一度確認します。
ただし、必ず同じ問題を最初から最後まで解かせる必要はありません。
解答にある図を隠し、自分で描かせる。
途中式を隠し、最初の一手だけ考えさせる。
問題文を見て、使う条件へ線を引かせる。
教材にある同じ単元の類題を一問だけ解かせる。
このような確認でも十分です。
見るべきなのは、答えを覚えているかではありません。
解答を見ていない状態でも、条件から考え始められるかです。
時間を置いても最初の一手を選べるなら、考え方が少しずつ残り始めています。
【類題は、無理に親が作らなくてよい】
理解できたか確かめるために、少し違う問題を解かせたい。
そう考える家庭もあるでしょう。
ただし、元の問題の数字を親が適当に変える方法はおすすめできません。
算数の問題は、数字同士の関係を考えて作られています。
一つの数字だけを変えると、
答えが割り切れない。
条件が矛盾する。
図形が成立しない。
元の解き方が使えなくなる。
といったことがあります。
親が新しい問題を作る必要はありません。
塾の教材にある同じ単元の次の問題。
先生が指定した類題。
テキストの例題と練習問題。
こうした既存の問題から、一問だけ使えば十分です。
適切な類題がすぐに見つからなければ、元の問題で図や式を隠し、最初の判断だけを確認します。
教材を増やすことより、同じ考え方を自分で選べるかを見ることが大切です。
【親は、解き方をもう一度教えすぎない】
家庭で解き直しを見るとき、
「ここはこうするんでしょう」
「前にもやったよね」
「まず線分図を書けばいいじゃない」
と、親が先に解き方を示してしまうことがあります。
その場では進みます。
しかし、親の言葉をきっかけに解けたのであれば、子どもが自分で最初の一手を選べたとは限りません。
親が確認するのは、解法のすべてではありません。
求めるものに印がついているか。
条件を整理できているか。
必要な図や表を自分で選べているか。
最初に何をするかを短く書けているか。
ここまでで十分です。
子どもが止まったら、答えを教える前に、
「問題文のどの条件をまだ使っていない?」
と、問題へ戻します。
親が解き方を再現するのではなく、子どもが問題の条件へ戻れるようにすることが大切です。
【解き直しは、正解を作る作業ではない】
中学受験の算数では、まったく同じ問題が出るとは限りません。
数字が変わる。
条件の順番が変わる。
図の見せ方が変わる。
問い方が変わる。
そのたびに、覚えた解答を探していては対応できません。
必要なのは、
この問題では何を比べているのか。
どの数量をそろえるのか。
何をもとに考えるのか。
どの条件がまだ使われていないのか。
を判断する力です。
解き直しとは、前の問題をもう一度正解することではありません。
次の問題で使える判断を、一つ持ち帰ることです。
【まとめ】
中学受験の算数で、解き直しても身につかない子は、考え方ではなく、直前に見た解答の形を覚えていることがあります。
解答を見た直後に同じ問題が解けても、理解できたとは限りません。
解き直しでは、
解答を閉じる。
求めるものと条件を整理する。
必要な図や表を自分で作る。
最初の一手を短く書く。
条件から式を作り直す。
翌日や数日後に、解答の記憶が薄れた状態で確認する。
この流れが大切です。
同じ問題の答えを再現できることより、条件が少し変わっても、自分で考え始められること。
それが、算数の解き直しが身についた状態です。
解き直しの目的は、間違えた問題をきれいな正解へ変えることではありません。
次に似た問題へ出会ったとき、問題の条件から自分で最初の一歩を選べるようにすることです。
